もう一度、重なる手

◇◇◇

 カフェの席で文庫本を読んでいると、誰かが近付いてくる気配がした。

「お疲れさま」

 顔をあげると、私の向かいの椅子を引いたアツくんが、ホットコーヒーを片手に腰掛けるところだった。

「あ、お疲れさま……!」

 慌てて本を閉じると、アツくんがふっと笑う。

「二時間も待っててくれたんだよね。ごめんね。退屈じゃなかった?」

「全然。本を読んで待ってたから」

「昔もよく本を読んでたけど、今も好きなんだね」

 私が読んでいた文庫本を見せると、アツくんが懐かしそうに目を細めた。

「何を読んでるの?」

「今読んでるのは私の好きな作家さんのミステリー」

 本屋さんでかけてもらった文庫本の茶色のカバー。それを捲ってタイトルを見せると、アツくんが「ああ、それ」と頷いた。

「話題になってるんだよね。今度、映画にもなるって」

「アツくんも読んだことある?」

「気にはなってたけど、読んだことはないよ」

「そうなの? この作家さんのミステリー小説、すごく面白いの。あちこちに散りばめられた伏線の繋げ方がものすごく秀逸で――」

 自分が読んでいた本にアツくんが興味を持ってくれたことが嬉しくて、つい前のめりになってしまう。

「フミが面白いって言うなら、余計に気になるな」

「もうすぐで読み終わるから、そのあとアツくんに貸そうか?」

 興奮気味に提案したら、テーブルに頬杖をついたアツくんがククッと笑い始めた。
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