もう一度、重なる手

「フミのお母さん、今度はその人と再婚する予定なの?」

 眉根を寄せたまま訊ねてくるアツくんが、お母さんのことを疎んでいることがわかる。

 当然だ。お母さんは再婚してからすごくよくしてくれた二宮さんを裏切ったんだから。

「再婚はどうだろう……。お母さん、二宮さんと別れたあとに五~六人は彼氏が入れ替わってるから」

「相変わらずなんだね」

 アツくんが苦笑いして、ため息を吐く。

「フミは、そのあいだ嫌な思いはしなかった? 父さんとフミのお母さんが別れたあと、フミが何回か手紙をくれただろ。フミのお母さんに新しい彼氏ができたって書かれた手紙がきて、それに返事を返したあとフミからの連絡が途絶えたから、心配してたんだ。一年して同じ住所に手紙を出してみたら、あて先不明で返ってきたから余計に心配になって、最初に手紙をもらったときの住所までフミのことを訪ねて行ったりもしたんだよ。引っ越してたみたいで、会えなかったけど」

「そうなの?」

 アツくんの話に、私は思わず目を見開いた。母に新しい彼氏ができたことを報告した手紙。私は、その手紙の返信を受け取っていない。

 何かの手違いで別の住所に届けられたか、紛失されてしまったのかもしれない。

 そのことを伝えると、アツくんが「そうだったんだ……」と頷いた。

「でも、よかった」

「なにが?」

「お母さんに彼氏ができたってことを報告したあと、アツくんから返事が来なくなったでしょ。だから私、お母さんのことでアツくんに不快な思いをさせて嫌われてしまったのかなって思ってたの。だけど、心配して探しに来てくれてたんだね……」

 子どもだった当時に探しに来てくれたアツくんに会えなかったことは残念だけど、その事実が知れただけで嬉しい。

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