もう一度、重なる手
「今日はありがとう。フミに再会できて、こんなにもゆっくり話ができて嬉しかった」
「私も」
駅のホームでの別れ際、お互いに手を振ったあとに、アツくんが「あ、そうだ」と思い出したようにつぶやく。
「さっきフミが読んでた本。読み終わったら貸してよ」
「無理やり読まなくったっていいんだよ」
「無理やりじゃないよ。俺も気になってる本だったし。それに、何か約束があったほうが、またフミに会う口実ができるから」
ふっと悪戯っぽく笑うアツくんに、私の胸は否がおうなくドキリとした。
「じゃあ、またね。おやすみ」
そう言うと、アツくんは今度こそ、私の前から去って行く。
アツくんの背中を見つめながら、私は文庫本の入ったカバンをぎゅっと両手で胸に抱え込んだ。
この本があれば、またアツくんに会える。
十四年ぶりのアツくんとの約束に、私の心はいつになく浮足立っていた。