もう一度、重なる手
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普段の帰宅よりもだいぶ遅い時間に自宅マンションまで帰り着いた私は、アツくんと過ごした時間の余韻に浸りながら、上機嫌で家のカギを差し込んでドアノブを捻った。
今日はいい夢を見ながら、ぐっすりと眠れそうだ。そんなふうに思っていたのに、開いたドアの先で灯っている部屋の明かりと、玄関に揃えられた男性用の革靴を目にした瞬間、一気に身体の熱が冷めた。
今夜もまた、小田翔吾がうちに来ている。それも、アポなしで。
翔吾くんは、三つ年上の私の恋人だ。アツくんにも話したように、付き合出だしてそろそろ一年になる。
翔吾くんは私の勤務先と取引のある広告会社の営業担当で、事務員として受付で何度か対応しているうちに親しくなった。
初めに食事に誘ってきたのも連絡先を聞いてきたのも翔吾くんから。
明るくて社交的な彼に引っ張られるようにして始まった私達の交際は、世間一般的には順調なのだと思う。
先月はちょうど、私達が付き合い始めて一周年の記念日で。海と夜景の見えるレストランでふたりでお祝いをしたときに、翔吾くんに言われた。
「今度、史花のことを両親に紹介したいと思ってる」
「結婚」という言葉をはっきり口に出されたわけではなかったけれど、あれは実質プロポーズだったのだろう。