もう一度、重なる手

 翔吾くんは、自分の両親に私を紹介したあと、私の母のところにも挨拶に行きたいと言ってきた。

 二十四歳の私と二十七歳の翔吾くん。お互いに結婚を考えて付き合い始めてもいいような年頃なのに、翔吾くんから「両親に紹介したい」と言われるまで、私は彼とのお付き合いの先に結婚の可能性があるかもしれないということを全く意識していなかった。

 翔吾くんのことは好きだし、長くお付き合いができればいいとは思っていた。けれどそこに急に現れた結婚という《現実》が、いまいちピンとこない。

 それは、私の母が、結婚とか家庭とか家族とか、そういうものとあまり縁のない人だったことが原因なのかもしれない。

 もちろん、母にも私の実の父や二宮さんと結婚生活を送っていた期間があった。だけど私は、誰かの妻として結婚生活を送る母よりも、恋人を絶えず入れ換えてひとりの女として奔放に生きてきた母を見ていた期間のほうが長い。

 そんな母に、翔吾くんのことを紹介するのは少し不安があった。それに、もしかしたら私も、結婚生活にうまく適応できずに、母のようになってしまうかもしれない……。

 わずかではあるが、絶対にないとは言えない可能性。それを考えたら、私との結婚を考えてくれているらしい翔吾くんとの交際に迷いが生じた。
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