もう一度、重なる手
私はこのまま、翔吾くんの両親に会っていいのだろうか。
再婚の予定もない彼氏と同棲している母を、翔吾くんに会わせていいのだろうか。
翔吾くんは、男の人にだらしない生活をしてきた母を見て引いてしまわないだろうか。
頭で先回りしていろいろと考えてしまい、私は「両親に紹介したい」と言ってくれた翔吾くんの話を曖昧な態度で誤魔化した。
だけどたぶん、それがよくなかった。
翔吾くんは、私に他に男がいるのではいか。だから、結婚を渋っているのではないか……、と疑っているようなのだ。
もちろん、私には翔吾くんのほかに付き合っている人なんていない。
でも、私の浮気を心配して疑心暗鬼になっている彼は、一ヶ月前からこんなふうに、合鍵を使ってアポなしで私の家にやってくる。まるで、抜き打ち検査でもするみたいに。
私は小さく息を吐くと、なんとか憂鬱な気持ちを胸から押し退けた。暗い表情や煩わしげな顔を見せれば、きっと翔吾くんは余計に私のことを疑う。
だからいつもどおり。靴を脱ぎながら、部屋の奥の翔吾くんに呼びかけた。
「ただいまー。翔吾くん、来てたんだ」
ゆっくりと廊下を歩いていくと、リビングのドアのところで慌てて飛び出してきた翔吾くんとぶつかりそうになる。