もう一度、重なる手
苦目のコーヒーでも淹れて、気分転換でもしよう。
ミル付きのコーヒーメーカーの電源を入れて、カップ一杯分のコーヒーを淹れる。時間をかけてそれを飲み干すと、翔吾くんが迎えに来るまでの残り数時間をどうやって過ごそうかと考えた。
テレビ台の横の本棚の前に立って、そこに並ぶ本を見つめる。
最近買った本は数日前に全て読み終えたから、今は積読本もない。仮にあったとしても、翔吾くんとの約束を控えた今の状況では、どうせ読書に身も入らないだろう。
今はとりあえず、翔吾くんの両親との食事会のために少しでも体力を温存しておくべきなのかもしれない。
そんなことを思いつつ、目に付いた一冊の文庫本を本棚から抜き出す。それは最近読み終えたばかりのミステリー小説で、アツくんに貸すと約束している本だった。
アツくんとは、二週間ほど前に会社のビルの一階のカフェでランチして以来会っていない。
また偶然会えないかなと思ってランチタイムに何度かカフェに足を運んだけど、休憩時間がズレているのか、他の場所でお昼を食べているのか、アツくんとは会わなかった。
アツくんは仕事が終わった夜の八時以降によくカフェでコーヒーを飲んでいるみたいだけど、私の退社時間は基本が六時で遅くても七時。
特別な用事もないのに八時まで待つのは待ち伏せするみたいでよくないような気がして……。
アツくんに会いたいな、と思う気持ちを自らセーブしてしまう。
でも、理由があればアツくんに会える。
それにアツくんに会う約束があれば、翔吾くんのご両親との憂鬱な食事会も、なんとか笑顔で乗り切れるかもしれない。