もう一度、重なる手

 私が送ったラインになんの返事もしてこなかったくせに。嫌がらせみたいなアポ無しの訪問にため息がこぼれる。

「シャワーしてた。今出たところだから、リビングで適当に待ってて」

 脱衣所のドアから顔を覗かせて言うと、翔吾くんが靴を脱いで部屋に上がってくる。

 脱衣所の前の廊下を通り過ぎていく翔吾くんの足音を聞きながら、私は急いで着替えを済ませて、髪の毛をドライヤーでざっと乾かした。なんとなくだけど、あまり待たせたら翔吾くんが機嫌を損ねそうな気がしたから。

「お待たせ」

 パジャマに着替えた私がリビングに行くと、ビーズクッションに座ってスマホを弄っていた翔吾くんが顔をあげた。

 ややつり目気味の翔吾くんは、無表情で口を閉ざしていると少し怒っているように見える。最近は機嫌の良い日が多かったのに、私がご両親と会う約束をドタキャンしたせいで、翔吾くんの機嫌は急降下だ。

「翔吾くん、もうごはんは食べた? お腹空いてる?」

「仕事終わりに軽く食べた」

「そうなんだ。じゃあ、何か飲む? コーヒー淹れようか」

「いや、いらない。ちょっと話しにきただけだから」

「次にご両親と会う日程のこと? だったら、お母さんのケガが治ればすぐに調整するよ」 

 不機嫌な表情を浮かべたままの翔吾くんを前に、作り笑いが引き攣る。翔吾くんは、私がなんと言えば機嫌を直してくれるのだろう。

 ため息を吐きたいのを堪えていると、翔吾くんが私を睨むように見ながら口を開いた。

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