もう一度、重なる手
「昼休みに史花がカフェでランチしてたやつ、あれ、誰?」
「え?」
「今日の13時頃、仕事で史花の会社が入ってるビルに行ったんだ。そのとき、男とふたりでランチしてる史花のことを見かけた。テーブルの上で手を握り合ったりして、随分と親し気だったけど」
翔吾くんの指摘に、ドキッとする。
まさか、アツくんと一緒にいるところを見られていたなんて。昼間に送ったラインに翔吾くんが返事をしてくれなかったのはそのせいだ。
アツくんとの間にやましいことはないけれど、何も知らない翔吾くんには、私が白昼堂々と浮気しているように見えただろう。
「なあ、史花。あいつ、誰? 俺に隠れて、しょっちゅうあんなふうに会ってたのか?」
アツくんのことはいずれ翔吾くんに話すつもりだったけれど、こんなカタチで知られてしまうなんて。
「カフェで会っていた人は私の兄」
仕方なく白状すると、翔吾くんが怪訝な顔をした。
「兄? 家族はお母さんだけだって言ってたよな」
「そうだよ、血の繋がってる家族はお母さんだけ。カフェで翔吾くんが見た人は、お母さんが再婚した相手の子どもで私の義理の兄だった人。その相手とお母さんは十四年前に離婚してて、それ以来兄とも会っていなかったんだけど、最近偶然再会したの」
アツくんが私が勤める大洋損保と同じビル内のクリニックに勤めているドクターであることや、今日ふたりでカフェで会っていたのは本を貸すためだったことを説明すると、翔吾くんは渋い表情だったがいちおう理解してくれた。だけど、私とアツくんの関係について納得はしていないらしい。