さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 会社のトップでありながら、誰にでも愛される父の様子は、微笑ましい。そして真面目な父は彼女らの言い分を本気にして悩んだのかもしれない。
(……っていってもねえ。結婚なんてまだまだ考えられないよ)
 光莉はため息をこぼす。
「さて、出張の申請をしないとね」
 光莉はさっそく今いる工場から隣のオフィスの方へと移動する。
 ――このときは、自分の身の回りに何が起きているかなんて考えもしなかった。

* * *

 週末、光莉は幸雄から招待状を預かり、東京都内のホテルに赴いた。パーティーはホテル内のボールルームの方で行われることになっている。
 スーツに身を包んだ光莉は、受付を済ませたあと、緊張しながら会場の中へと入っていく。
 豪奢なシャンデリアが吊るされたホールには幾つか円卓が並び、シェフが料理を振る舞うブースができていた。中央の舞台の下手側にはグランドピアノが設(しつら)えられ、上手側ではオーケストラが生コンサートのために待機をしている姿が見える。
 光莉は入口付近に待機している配膳係からシャンパンを受け取り、会場の中を見渡した。
 ざっと三百名くらいだろうか。女性は着物やドレスを着ている人もいてパーティーをよりいっそう華やかに彩っている。男性はそのぶんスーツやネクタイのデザインで式典に色を添えていた。
 こんなに豪華なパーティーに参加するのは初めてなので落ち着かない。既に錚々たる企業の人間が参加していることに気付き、光莉はすっかり圧倒されていた。
(この場に招待されるということはとても名誉なことなのね)
 光莉は改めて身を引きしめる。
 山谷食品の代表代理なのだから、会社に恥じないように謹んで行動しなくては。
 と、そのとき。
 後方のドアが開いた。
 会場の中に甘い金木犀の香りが流れてくるのを感じて、光莉はつられるように振り返る。
 その香りは、あの胸を甘く締めつけるような想いをこみ上げさせ、光莉を遠い過去へと引き戻した。
 光莉は彼が近づいてくるのを、夢のような気持ちで眺めていて、足に根っこが生えてしまったかのように動けないでいた。
「失礼」
 その声にハッとする。
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