さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 上背のある、さらさらの薄茶色の髪から覗かせた、目鼻立ちの整ったその人にたちまち目を奪われた。立ち居振る舞いに上品な色気が漂う彼は、まるで絵本に出てくる西洋の王子様のようなといっても過言ではないかもしれない。しばらく恋とは無縁な光莉は久しぶりにときめきを感じてしまった。
 しかし光莉が気になったのは彼の美しい容姿というよりも雰囲気だ。理知的な眼差しの中にまとう独特の穏やかな空気感、そして、なんともいえない懐かしさを彼に感じていた。
(あれ、ちょっと待って。まさか、ひょっとして)
 彼の姿が光莉のよく知る人と重なっていく。やがて、走馬燈のように過去の記憶が次々と呼び起こされていく。
(嘘。こんな偶然があっていいの)
 かつて光莉が恋をしたその人の、夢に描いていた将来の姿そのものだったのだ。
 あっという間に通り過ぎていった彼の背に引き寄せられるように、光莉は彼を追いかけてしまっていた。彼が他の招待客と会話をしている表情や仕草につい魅入られる。少し斜めに傾けた輪郭に記憶の面影がぴたりと重なっていた。
 光莉は、思わず「りっちゃん」と声をかけそうになったが、今の自分の立場を思い出して踏みとどまる。
 もどかしい。けれど、この場で幼い日の綽名で声をかけるのは失礼だろう。いくらかつて仲良くしていたとはいっても、もう十年以上月日が経過しているのだ。
 はやる気持ちをなんとか抑えて、挨拶の切れ間に、光莉はよりいっそう胸を高鳴らせながら、おもいきって彼に声をかけた。
「こんばんは。ひょっとして、律樹くんよね? 高(たか)橋(はし)律(りつ)樹(き)くん?」
 光莉が声をかけると、彼は驚いたように目を見開いた。色素の薄い瞳が揺れている。その瞳の色にも懐かしさを感じて、光莉はこみ上げてくるものを感じ、息が止まりそうになった。
「君は――」
 戸惑う彼の顔を見て、光莉はハッとし、慌てて一枚の名刺を差し出した。
「突然ごめんなさい。私は光莉。山谷光莉よ。中学まで一緒だった――」
 いくら自分が覚えていても彼が忘れていることだってあたりまえにあるだろう。ショックだけれど、でも、化粧をしているし、昔とは異なる容姿からはすぐ想像がつかないだけかもしれない。なんとか思い出してほしくて、必死に言葉を紡ごうとするので精一杯だった。
「山谷食品……」
 彼は名刺を見て、ぽつりと呟く。
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