さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
「うちの傘下に入るか、それとも倒産するか、二択なら、みなさん迷うことなく前者をとりますよ」
 傲慢な彼の物言いには納得ができない。光莉はますます苛立ちを募らせる。このまま好き放題に言われて、頷けるはずがない。
「他のみなさんのことは知りません。だいたい、うちが欲しいというのなら、山谷食品が生み出してきたブランド商品を一体どんなふうにお考えなのでしょう?」
 山谷食品は従業員数が百人にも満たない小さな会社だが、石川県の地元の食材の味を活かした商品を幾つも生み出し、県内での人気はもちろん全国的にも展開し、根強い人気があるのだ。
「ブランド、ですか」
 律樹は少し考えるような顔つきになる。
「はい。たくさんの顧客が必要としてくれている、大事なブランドです」
 秘伝のレシピ、伝統の製法があるからこそ、山谷食品は魅力的な商品を生み出すことができ、顧客に愛されてきた。そこに着目してくれる企業が多かったのはたしかだ。だからこそ、常盤グループも山谷食品に目をつけた。以前は両社の共同開発コラボを実現し、双方にとって多大な利益をもたらしたはずだ。
 自信を持って豪語する光莉をよそに、律樹はため息をつく。
「しかしブランドは価値のある状態だからこそブランドだといえるんですよ」
「今はその価値がないとでも言いたいんですか?」
 老朽化した生産工場を廃止し、事業の拠点を東京に移してブランド名を変更するという書類の文面を目にし、光莉は憤りを感じながら律樹を糾弾した。
「どうやらお嬢さんは状況が全くわかっていないようですね。単刀直入に申し上げましょうか」
 律樹はそう言い添えてから、冷たい眼差しでこちらを見据えた。
「君が社長の器として成長するまで、果たして山谷食品は持つだろうか。俺はその心配をしているんだ。専務の川岸さんなら、こちらの傘下にくだることを希望していた。彼にはそれなりのポストを用意すると約束した。彼は喜んで頷いてくれたよ」
 急に口調を変えてきて本性を見せた彼に気をとられるよりも、後者の事実に光莉は焦った。
「待ってください。川岸からはそんなこと聞いていません」
 川岸は山谷食品の社長である幸雄の右腕だ。家族経営以前に、彼がいなくなったらどうにもならない。
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