さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 バカ正直にありのまま話せば、真面目な父はきっと反対するだろう。会社の資金繰りや今後の対応について倒れるまでひとりで抱え込んでいたのだ。この件でまた激しいショックを受けてしまうかもしれない。それだけは避けたい。
 ひとり娘としてできることは何だろう。
 光莉は延々と考えた。
 律樹の言葉を信じていいのか、それとももっと別の方向性で何かできることはないのか。
 川岸に話をしたところ、律樹が言っていたことの事実確認が取れた。気まずそうに目を合わせてもらえなかったことに、光莉はショックを受けた。社員や従業員が皆どこか不安そうな顔をしていることも気がかりだった。
 律樹からの提案は、いわば一筋の蜘蛛の糸のように垂らされた、希望だ。しかし同時に、安易に飛びつけば真っ逆さまに落ちていくような底の見えない闇への恐怖を感じた。
 律樹の言うことを真に受け、信じていいだろうか。
 常盤家に嫁入りしたあとの自分が想像できない。数年後に金沢に戻すことも考えると彼は言っていた。時期が過ぎれば別居するということなのか、離婚するということだろうか。彼側の事情もまだ詳細を明かされてはいない。
 光莉は毎日毎日考え続けた。そうこうしているうちに、じきに融資の件で電話が鳴りはじめ、迷っている時間はないことを思い知った。
 そして、とうとう光莉は決意する。なりふり構っている場合ではない。
 一週間後、律樹に直接アポイントメントをとり、彼の指定する場所へと赴いた。そこは東京の一等地に位置する料亭だった。
 実は、光莉はあることを相談しようと思っている。会社のことも含め、頼みごとをする立場ならこちらから向かうのが筋というものだろう。何よりこれは、双方の密談になる。誰もいないところで話したかった。
「――それで、君の気持ちは決まったかな」
 個室に通されてから、挨拶をする間もなく、律樹はそう問いかけてきた。
 光莉ははっきりと頷く。
「山谷食品を残せるなら……あなたの出した条件に同意します」
「そう。理解が早くて助かるよ」
 律樹は表情こそ緩めないものの、ほっと胸を撫で下ろしたように言った。彼にもきっと背負うものがあるのだろう。それは一緒にいるうちに知ることができるのだろうか。
「その前にお願いがあるんです」
「何?」
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