もう一度あなたに恋したときの処方箋
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憲一は一瞬だけ迷ったが、慌てて鞠子の後を追った。
会計を済ませてから、店を出て左右を見る。すると上り坂を歩いていく鞠子の後ろ姿が見えた。
ダッシュで走った。
「待ってくれ」
坂道の途中で追いつくと、十一月だというのに汗がふき出してくる。
「ゆっくり話がしたかったんだ、君と」
「いつも会社で会ってますよね、私たち」
会社で話せばいいというように、彼女は足を止めずに歩き続けている。
「仕事の話じゃなくて、プライベートでだ」
「プライベートですか?」
やっと立ち止まったと思ったら、憲一に戸惑った顔を向けてきた。
背が高い憲一を少し見上げる格好になるので、思った以上に破壊力のある視線だ。
「私、いつも、いつも待っていました」
「篠原……」
「高木さんが声を掛けてくださるのを」
憲一からの言葉を待っていたと聞いて、胸がギュッと締めつけられた。
そういえば見舞いに行った時『淫乱な女じゃないってわかってもらえたら十分だ』と言っていたが、ほかにも言葉を待っていてくれたのだろうか。