イケメン検事の一途な愛


部屋から追い出され玄関前で立ち尽くす。
泣いて叫んで縋り付いて。
取り乱したい心境と彼には迷惑をかけてはいけないという自制心が交錯する。

誰にも見られたくない。
今の自分を。
奴のスパイシーな香水の臭いが鼻について吐き気がする。
どこかに消えてしまいたい衝動に駆られながらも、足が床に張り付いているかのようで。
一歩も動けずに、涙ばかりが溢れ出す。

タワーマンションの高層階。
1フロアに4戸しかない物件な為、同じフロアの住人に会うことは殆どない。
それでも誰かに見られるんじゃないかと思いながらも動けずにいると、ガチャっと音を立ててドアが開いた。

「美雨っ?!」

声と共に視界に映ったのは驚いた表情の彼だった。

*****

彼の家の浴室で、シャワーを出しっ放しにしながら立ち尽くす。
鏡に映った自分の胸元に、アイツがつけたキスマークが。

何度も何度もゴシゴシと洗っても消えることは無く。
スパイシーな香水の臭いは洗い流せても、刻まれた傷と記憶は中々消えない。

どれほどの時間が経ったのかすら分からないが、心配になった彼が声を掛けて来た。

起きてしまった出来事も過ぎてしまった時間も巻き戻すことは出来ない。
大好きな両親がこの世から消えてしまったことも。
いるべき場所から遠くの国に連れて行かれた過去も。

そして、今こうして。
大好きな人の前に、あり得ない姿で現れたという現実も。


彼が用意してくれた自分の服に袖を通し、最低限の肌ケアだけ施す。
彼に幻滅されたら、もう救いようがないから。

「おいで」

何事もなかったように彼は両手を広げた。

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