イケメン検事の一途な愛
伊達眼鏡にマスク着用。
髪はウィッグをあえて着けずに短いままで。
しかも、スキンケアのみのノーメイク状態でマンションを出た。
18時10分。
仕事を終え、帰宅するサラリーマンが行き交う虎ノ門。
スーツ姿の人が足早に通り過ぎる。
そんな流れに従うように虎ノ門ヒルズ駅から東京メトロ日比谷線に飛び乗った。
上着の襟を立て、窓の外の景色を眺め、久しぶりに乗った電車の揺れの心地よさを味わう。
『ご乗車有難うございました。まもなく中目黒、中目黒。この電車は終点にございます。お忘れ物、落とし物ございませぬようご注意下さい。東京メトロ日比谷線ご利用頂きまして誠に有難うございました。お出口は左側です』
乗車時間13分、たった5駅。
あっという間の電車の旅は終点で終わりを迎えた。
東急東横線に乗り換えるサラリーマンを横目に改札口を出た。
折りたたみ傘を広げて、小雨が降る中、ゆっくりと歩き出す。
見覚えのある建物があった。
15年という歳月が経ったのに変わらぬ景色に安堵しつつ。
見慣れぬショップやビルが多いことに不安が一気に押し寄せて来た。
「あぁ……」
自宅があったはずのその場所はコインパーキングになっていた。
放火されたのだから、家は焼け落ち、取り壊されたことは予想していた。
跡形もなく消えてしまった、両親との思い出の家。
もう二度と見ることが出来ない。
視界が歪む。
ここで両親が亡くなったのだと思うと切なくて。
コインパーキングの精算機の陰に隠れて、両手を合わせた。
「お父さん、お母さん、……ただいま」