壊れるほどに愛さないで
雪斗が、煙草の火を消すと、大きな掌に雪を乗せて私に見せる。見た瞬間に、ほろりと溶けて水に変わる様が、何故だか、涙に変わるみたいに見えた。

「どした?」

答えられない。

それなのに、心には、雪のように、雪斗への思いだけが降り積もっていく。

雪斗の掌が私の頬にそっと、触れた。

「そんな顔されたら、マジで帰したくなくなる……」

「私……」

見上げれば、雪斗の唇が、舞い降りてくる雪と一緒に重ねられる。軽く重ねた唇は、深くなりかけて、そっと離された。

「……ごめん、泣かすつもりなかった」

雪斗に言われて、雪斗の指先で涙を掬ってもらうまで気づかなかった。自分の瞳から、涙が溢れていた事を。

「違うのっ……」

心は、限界に近づいてくる。気づけば、私は両手を雪斗の背中に回していた。すぐに雪斗が、私の体を包み込む。

「……雪斗が……気になって……どうしようもないの……」
 
「……俺もだよ」

雪斗が、困ったように笑う。
そして、雪斗は、私から身体をそっと離した。

「このまま、美織抱きしめてたら、連れ帰りたくなるから……ほら、家まで、もうちょい」

雪斗は、大きな掌を差し出した。私は迷う事なく、雪斗の右手を取っていた。掌から伝わる雪斗の温もりに、心まであたたくなる。

そのまま、雪斗に手を引かれて、アパートの下までたどり着くと、郵便受けの前で、ようやく雪斗が、私の掌を離した。

「何階?」

「二階なの」

私は、201号室とプレートのついた郵便受けに手をかけながら、2階を指差した。

「一緒だな、俺も201号室」

「ほんとだね」

その時、バサバサッと音がして、私は、視線を落とすと同時に、息を呑んだ。
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