壊れるほどに愛さないで
「傷……痛む?」

私は、そっと指先で雪斗の傷口に触れた。

「全然!美織が、キスしてくれたらすぐ治るんだけど……って嘘!ごめん」

雪斗が、掌を合わせて拝むようなポーズで、眉を下げた。

思わずクスッと笑った私を見て、雪斗が、ほっとしたように笑った。

「やっぱ美織は、笑ってる方がいいな」

「えと……」

こういう時、何と答えるのが正解なんだろう。私が、指先をもじもじと擦り合わせているのを眺めると、雪斗が、パッと私の手を取った。

「デートしよ」

「え?」

「本当は、美織と一日中デートしたかったけど、俺、午後から、ドクターとアポイントあるから、午前中だけなんだけどさ、コスモス見に行かない?時期も過ぎてるから、満開とは、いかないけどさ」

コスモスは、毎年欠かさず友也と見に行っていた。昨日の友也との事を思い出しそうになった私は、雪斗の肩にこつんと額を寄せた。

「連れてって」

雪斗は、私の頭をくしゃっと撫でると、にこりと笑った。

「……うん、行こう。嫌なこと……忘れるくらい綺麗だからさ」



私が、シャワーを浴びて着替えるまで、雪斗は、ベランダで煙草を吸いながら待っていてくれた。着替えて、髪を整えていたら、雪斗が、スマホ片手に声を顰めた。

「あ。美織、ごめん。得意先から、電話だから、アパート下で待ってるな」

「うん、鞄に荷物いれて、鍵閉めたら降りるね」

雪斗が、頷くと玄関扉を開けて出て行く。

すぐに、部屋のなかは、シンとした音が耳に纏わりついた。

僅かな時間、離れるだけなのに、雪斗が、いないとすぐに不安になる。

「このままじゃ……私が私でなくなっちゃう」

雪斗との恋に溺れてしまいそうで、呼吸の仕方すら忘れてしまいそうだ。

私は、小さく首を振ってから、スマホを手に取った。友也からの連絡はない。昨晩から、鳴らないスマホにほっとしながら、私は、靴を履いた。
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