壊れるほどに愛さないで
(緊張してきたな……)

街灯は、ほとんどなくなり、勿論辺りに人も居ない。本当に、ストーカーは、友也は現れるのだろうか。鼓動は、ドクドクと嫌でも跳ねていく。

私は、スノードロップのキーホルダーを取り出すと、ぎゅっと握り締めた。

そして、後ろを振り返らずに、暗い夜道を月明かりを頼りに、歩いていく。心臓の音に合わせて、駆け出したくなる衝動を何とか抑え込みながら、路駐のワンボックスの黒い車を通り過ぎた時だった。  


「美織、久しぶり」 

(え……?)

車の影から出てきたのは、黒いパーカーを頭からすっぽり被り、目元には黒いサングラス、口元を黒いマスクで覆った、長身の男だった。その声は、ヘリウムガスで、誰の声なのか特定はできない。

「……とも、や……?」

背格好は、友也に酷似している。思わず、後退りした私の手首を男が強く掴んだ。スノードロップのキーホルダーがカチャンと音を立てて、アスファルトに落下する。

「痛っ……友也やめてっ!」

「怖がらないで。ゆっくり話そ」

「離してっ、私にも、雪斗にも近寄らないで!」

雪斗の名前を出した途端、男が、苛立ったように舌打ちをした。 

「雪斗、雪斗って、どうして美野里も美織もそうなんだろうね?」

男は、路駐の車の後部座席の扉を開け放つと、空いていた掌で私の口元を強く抑えつけた。

「ンンッーーー!」

このままでは連れ去れられてしまう。目一杯手足をバタつかせるが、男は、構わず私を強く車内へと引っ張ろうとする。
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