壊れるほどに愛さないで
(このままじゃ……)

私は、男の掌に爪を立てた。

「っ!」

「嫌!離してっ!」

掌が、緩んだところで、私は思い切り、男の掌に噛み付く。

「いい加減にしろ!」

「きゃっ」

男の怒声と共にパンと頬が鳴って、気づけば私は、アスファルトに転がっていた。ガタガタと足が、小刻みに震えてくる。それと同時に口内は、すぐに血液の味が広がった。

「あ……ごめんね。大丈夫?あとで、ゆっくり、みてあげるからね」

(怖い……怖い……助けて、雪斗っ)

「嫌っ!来ないで!」

ーーーー『嫌っ!来ないで!』 

呼吸が、浅くなり、ふいに、もう一人の誰かの声と私の声が重なる。

(え?今の……美野里……さん?)

「はっ……はぁっ……来な……いで」

私は、お尻を引き摺るように、震える足で地面を蹴りながら後退する。

『美織大丈夫だよ、あんな男の事なんてすぐに忘れるから。それよりも早く思い出してね』

(思い出す……?何を?誰を?)

「や……たすけて……」

恐怖で、声を出そうとしても、出てこない。

「そんな顔しないでよ」

男が、にじり寄ってきて、再び私の手首を掴見上げた時だった。
  
「美織から離れろ!」
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