六月の月に愛を誓う。
「あんな顔させる彼氏なのに?」

「…え?」

「再会した日、本屋で美緒のことを見かけたんだ。一目ですぐにわかった。その時の美緒は苦しそうに彼氏の隣で笑ってたよね。俺はあんな顔をさせるために美緒と別れたわけじゃない」


律希と本屋に行って、好きな少女漫画のヒーローの話をしたら律希が拗ねてしまった時のことだとやっと理解する。

あの現場を、絢斗に見られていたんだ…。


「俺は、美緒から笑顔がだんだんと減っていくのが耐えられなかったんだ。“美緒のことを好きにならなければよかった”そう言った時の美緒の顔が今でも忘れられない。そんなことが言いたかったわけじゃない。そんな顔をさせたかったわけじゃない。美緒から笑顔を奪うくらいなら、離れた方がいいってそう思ったんだ。離れても、美緒が笑って幸せに過ごせれば、それだけでよかった。だから今の美緒を黙って見ていることなんてできない。あの頃の俺じゃ自信がなかったけど、今なら奪ってでも俺がこの手で美緒を幸せにしたいと思ってる」

「…っ」


なんで。

やめて。これ以上私をかき乱さないで。


「私、は…」


言わないと。私は律希が好きなの。律希の彼女だから、絢斗の気持ちには…。


「…美緒!」


何をいうわけでもなく、呼び止めてくる絢斗に背を向けて走り去る。

どんなに一生懸命走っても走っても、余計な感情は私の中から消えることはなかった。
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