愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
 愛理に出会った頃の俺は、正直なにもかも投げやりで、誰も信用できなかった。その刺々しい雰囲気をなんとかしろと何度も信二さんに指摘されたが、あまり自覚はなかった。心当たりなら十分にあったのだが。

 原因は大学院時代にKMシステムズの新規システム開発に携わった件だ。実験的に手掛け、学会誌に掲載した金融システムに注目したKMシステムズの関係者に声をかけられたのが最初だ。

 当時は企業からの案件に張りきり、舞い上がったのを覚えている。

 最初に見せられたドラフト版の契約書には著作権については、こちらが権利を持つと明記されていた。説明もきちんとあり、著作権に関しては開発者にしては重要な問題で、そのあたりの条件も含め開発に臨めた。

 しかしそのあと交わした正式な契約書をまさか書き換えられているとは思わず、サインを急かされたのもあり事態に暗雲が立ち込める。

 無事に実用化まで漕ぎつけ安堵し、KMシステムズとの契約は無事に終了した。これが業界で話題を呼べば、開発者としての自分の名も上がる。

 ところがKMシステムズが打ち出したシステムの開発者として俺の名前が出ることはなく、プログラムをコピーして系列会社で使うまでに至り、あきらかな著作権違反行為をするので信じられない思いで担当者に訴えた。

 そのときに社長秘書の崎本だと名乗る男から、契約書には著作権譲渡の旨について書いてあると告げられる。信じられない思いで契約書を確認すると、ドラフト版と内容が異なり著作権をすべてKMシステムズに譲渡すると書き換えられていた。
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