愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
 走馬灯のように彼との思い出が脳裏を過ぎり、歯を食いしばる。顔を上げられない。これ以上の言葉が出ないもどかしさを感じながら、このまま踵を返してさっさと去ってしまおうと決意する。きっと彼も私と一緒にいるのは不快だろう。

 そのとき両肩を掴まれ、反射的に頭を上げた。

「だから、いなくなったのか? 別れるって言ってきたのも、全部」

 切羽詰まった表情に息を呑む。込み上げそうになる気持ちを抑え、私は静かに首を横に振った。

「……どっちみち私たちはだめになっていたよ」

 別れを決めたのは、彼の許せない相手を知ったのも大きな理由だ。けれどそれだけじゃない。

「会社はあなたの好きにして。今更だけれど、私にできることがあったら……」

 どんな罰でも受ける。別れたことを含め、罵りたいならそうすればいい。彼にはその権利がある。万が一紘人と再会したら、なにを言われても受け入れる覚悟はしていた。

「結婚しよう」

 ところが彼の口から出たのは、罵詈雑言とは対極にある内容だった。

「なに、言って……」

 頭がついていかず、目眩を起こしそうになる。紘人は私の肩をしっかり掴んだまま真っすぐな視線を向けてきた。

「一歳に満たない子どもがいるって……俺の子じゃないのか?」

「違う!」

 あれこれ考える間もなく、即座に否定する。そこで彼が突拍子もなく結婚と言いだした理由が腑に落ち、無意識のうちに少しでもなにかを期待してしまった自分に嫌悪する。おかげで私は今度こそ彼に背を向けた。

「愛理!」

 手を取られそうになるのをすり抜け、その場を去る。ワンピースでパンプスなのにもかかわらず会社の外に出て走り続けた。

 前触れのない再会に動揺して、嘘をついてしまった後悔や罪悪感も合わさり胸が痛い。

 私が父の娘である限り、いつかは彼と再会する日が来るかもしれないとは思っていた。もしくはそんな日は来ず、紘人が他の女性と幸せになって過去はどうでもいいと思っていてくれたらとも考えた。全部、都合のいい話だ。

 現に紘人は私の前に現れた。タイミングも場所も最悪で、元恋人同士として思い出に浸る余韻さえない。彼にとってもはっきりしただろう。私は彼が憎んで復讐したい相手、KMシステムズ社長、柏木清志(きよし)の娘だと。
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