愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
「それはもう見させてもらった」

 彼の返答に、勢いずいた自分が少しばかり恥ずかしい。なんだか親バカみたいだ。紘人からスマホを返され、素直に受け取る。

「愛理は」

「ん?」

 不意に呼びかけられ、彼を見るとめずらしく続きを言いよどんでいる。どうしたのかと思っていたら、彼の形のいい唇が動いた。

「崎本さんと付き合っていたのか?」

 ぎこちない問いかけに、私の頭は真っ白になる。そういえば再会したときに崎本さんと結婚するはずだったのを紘人に知られていた。

「それは……あの」

 今度は私が歯切れ悪く戸惑う番だった。どう答えるのが正解なのか。

 紘人は急かしたりはせず、私にじっと視線を送ってくる。それを受け、ややあって私は観念した。

「付き合っては、いない。真紘と一緒に何度か三人で会ったけれど、本当にそれだけで……」

 崎本さんとは男女の仲らしい雰囲気は一度もなかった。でも悪い人でもないし、父とずっと付き合いのある人だ。信頼はできる、そう思っていた。

 実際のところは、父の後継者として社長の立場になりたいという理由だけで私に結婚の申し出をしたのが本音だったらしい。それが昨日、はっきりしてショックではなかったといえば嘘になるが、そこまで傷ついていない自分がいるのも事実だ。

 結婚しなくてよかったと心底思うが、どこかで割り切っているほうが楽なのかもしれないとも考えていた。さすがに、あそこまであっさり私たちを切り捨てるような人だとは思わなかったけれど。
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