愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
 彼をひとりの男性として好きだったわけでも、どうしても結婚したかったわけでもない。それでも崎本さんのプロポーズを受け入れたのは……。

「ただ、真紘に……父親はやっぱり必要なのかなって、ちょうど揺れていたのもあって」

 これを紘人に言ってもいいのか。

 ひとりで育てていく覚悟はしたものの、真紘にとってなにがいいのかを考えるとわからなくなった。動くなら、自分には父親がいないと真紘が意識する前がいいのか。

 紘人本人には妊娠どころか子どもの存在を伝えるつもりもなく、さらには好きでもない男性と結婚して子どもの父親にしようとしていたなんて。ましてや相手は父の右腕として働いていた人だ。

 軽蔑されるか、激怒されるか。

 紘人の反応をこわごわ待っていたら、突然抱きしめられ予想外の行動に目を見張る。

「愛理や真紘があんな男のものにならなくてよかった」

 顔は見えないが、複雑そうな彼の声色につい尋ねる。

「怒らないの?」

「怒る? 怒るなら俺自身にだよ」

 ますます意味が理解できずにいたら、紘人は腕の力を緩めこちらを覗き込むように目を合わせてきた。

「愛理がひとりで悩んで真紘のことを思って考えていたときに、俺はなにも知らずに過ごしていたから」

「で、でも知らなかったのは紘人のせいじゃなくて私が」

 彼の言い分に即座に反論すると、紘人は私の言葉を止めるように、そっと私の唇を親指でなぞった。
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