愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
 ちらりと紘人をうかがう。とはいえ仕事の付き合いと言われたらあまりどういう知り合いなのかと細かく追及するのもどうかと思うし、なにより彼女はあくまでも元社員だ。考えすぎないでおこうと結論づける。

 そのタイミングで真紘がぐずりだし、今度は私が抱っこする。

 園内にあるレストランは二階にあって、この時期はそこから桜が綺麗に見えると評判だ。そこに足を運ぼうと話し、ひとまず目指す流れになった。ところが向かってみると、少し列ができている。

「真紘もいるし、ここはあきらめようか」

 紘人に告げ、おむつだけでも換えようとそちらの入口に足先を向けた。しかし私を止めるように彼が肩を抱き寄せる。

「そこまでかかりそうもないし、多少待ってもいいんじゃないか? 愛理、来たかったんだろ?」

 彼の言葉に目を見張り、とっさに「でも」と言いそうになった。しかしその前に紘人が続ける。

「もちろん無理にとは言わない。ただ真紘も今はそこまで機嫌が悪そうでもないし、待っている間にぐずったら俺が抱っこして気分転換してくるよ。だから心配しなくていい。愛理の希望を優先してほしいんだ」

 もしも真紘とふたりで来ていたら私は迷わず諦めていた。真紘を連れて並ぶしんどさもある。ぐずったらどうしようという不安も。なにより母親なのに子どもを付き合わせる罪悪感がすごい。

 でも、いいのかな。自分の希望を言っても。真紘や紘人を付き合わせても。
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