恋人たちの疵夏ーキヅナツー
宝石のような時間/その9
アキラ



都内の某スタジオで”最終”リハを終えた

今、ローラーズのメンバーと別れてタクシーに乗ってる

それにしても、今日のタクヤは様子がヘンだったな

俺と目を合わせようとしないし、他のメンバーともどことなく、何か…

それにリハの最中も、やはりいつもと違ってちぐはぐだった

数段上の技術を持ってる人に、オレなんかが言うのもなんだか…

...


今向かっているのは、代々木公園

ここは赤子さんとの、”思い出の場”だ

実は今日のリハのスタジオ、赤子さんの口利きで借りたんだ

久しぶりに、ココで会おうやということになって

先に着いたのはオレ

”一緒に座った”ベンチに腰掛け、待つこと15分

黒皮のショートパンツに黒のタンクトップで走ってきた

「よう、リハどうだった?」

「なんとかです」

「そうか」とだけ言った赤子さんは、手にバドミントンのラケット二つ持ってる

「やろうや、これ、久しぶりに」

え?この暑いのに…?

早速、赤子さんは首のジャラジャラを外して、臨戦態勢だ

...


ギター教えてもらってる頃、赤子さん、オレに言ったんだ

「いつも女にうるさく説教がましく怒鳴られて、悔しいだろうからさ、アンタの得意なもんで、私をギャフンと言わせてみたらどう?何が得意なの?」

オレは中学からやってた、「バドミントン」と即答した

「よし、それやろう、ラケット買ってさ。これから公園行こう」

これがきっかけだった

さすがに、ラケット握ったこともなかった赤子さんには、楽勝だった

何回やっても

それでも、ハンデは絶対要らないって、突っ張ってた

マッドハウス近くの公園で延々、3か月くらいやってたかな

その間、赤子さん1回も勝てなかったんだけど、ある日、挑戦された

「今、特訓してるからさ。来月、賭け試合やるべ。どうせなら、この辺の公園じゃなくて、都心の大きいトコでやろ」

まったく、何考えてんだか…

ミュージシャンとかは、そのくらいぶっ飛んでないとダメなのかな、なんて思ったもんだ

結局、この代々木公園で勝負となってね…

それで、なにを賭けるかの何かは、負けた方が決めるということになった

これもなんかヘンだろって気もしたが…

まあ、勝つのはオレだから、何でもいいやって感じで

それで、その勝負なんだけど、すごい接戦になってね

どうにか勝ったって感じで、まいったよ

かなり練習してきたみたい、赤子さんってとこだった

で…、負けた方の決めた賭けのそれ、ホテルで一泊だったよ

渋谷のラブホテル、結構高級の…

赤子さんのことは好きだったし、やることやったけど


...


しばらくぶりの”勝負”は、これまた接戦だった

なんでも、何日か練習してきたようだ

ほんと負けず嫌いな人だ

「いい汗かいたわ。あんた、これから違う汗かく気あるか?」

「あの…、好きな子できたんで…。汗はこれだけにしときます」

いつも圧倒するような言い回しだから、この人には、こんな一言発するのもエネルギーいるわ

「知ってるよ。追っかけほとんどかわしてたのに、クローズの日だけ違ってたもんな、その子だろ?」

気付いてたのか、赤子さん…

まいったなあ

「もう寝たのか?」

「大阪から帰ったら、ということになってるんで…」

「バカだな、そんなとこケジメつけて。はは、がんばれよな」

他愛ない会話だったが、赤子さんにはいつも背中を押してもらってる

大阪の件は、さらりと「大丈夫、大丈夫」って言ってくれた

そのあと、外してた”ジャラジャラ”を首に戻して、赤子さんは大股で駐車場に向かって歩いて行った



さて、いよいよ大阪も近づいてきた

ケイコちゃん、体調の方はどうかな…

あと、明日遠出する行先、どこに決めたのかな?







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