【完全版】雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。
こ……れは、私も腕を回していいのかな?
そんなことを考えていると「ゲホッ、ゲホッ」と苦しそうな咳が響いた。
「いちゃいちゃするのは後にしてくれるかな?まだ終わってないだろ」
香坂は苦悶の表情を浮かべながら体を起こすと、地面に血の混じった痰を吐き捨てた。
その周りを取り囲んでいた闇狼のメンバーたちが一斉に彼を睨みつける。
もう勝敗は見えているというのに、香坂はまだやる気だ。
「あ?もうやんねーよ。あとは任せた」
怜央の言葉に真宙くん以外のメンバーが「お疲れ様です」と頭を下げる。
「瑠佳、帰るぞ」
私の手を取り歩き出そうとした怜央に「ちょっと待って」と声をかけると、その歩みが止まった。
「これ、あの人に渡したいんだけどだめ?」
“これ”とは私がずっと手に持っていたハンカチ。
「あいつは瑠佳を攫った奴だぞ」
「わかってる。だけど、」
「どうせだめだって言っても素直に聞かないんだろ。……渡すだけだからな」
「ありがとう怜央。すぐに戻るから」
私は自ら怜央の手を離し、香坂の元へと駆け寄った。