【完全版】雇われ姫は、総長様の手によって甘やかされる。

まだ立ち上がることすらできない香坂の脇腹近くにそっとハンカチを置く。

「……何、同情?それとも優しい私アピール?」


「好きなように解釈して」


「はは、わかったよ」


薄いピンクの色をしたハンカチは、香坂が握った箇所から赤く染まっていく。


「瑠佳、もういいだろ。行くぞ」

「うん」

香坂は背を向けた私に「また会おうね」とつぶやいたけれど、私がその言葉に返事をすることはなかった。



「待たせてごめんね、怜央。あと、これ使って」

鞄の中にあった汗拭きシートを一枚手に取って怜央へと渡す。

「ああ、助かる」

怜央は香坂の返り血で汚れた手を綺麗にすると、また私の手を取って歩き出した。


階段を下りている途中、ここが廃虚ビルだということを怜央が教えてくれた。

私の居場所をどうやって特定したのかというと、狼のキーホルダーに埋め込まれていたGPS機能を利用したらしい。

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