主役になれないお姫さま
今日は久しぶりに定時で仕事が終わったので、平日だがたまには手の込んだ料理をしようとスーパーによって買い物して帰宅した。
一真さんの帰宅が8時半ごろと言っていたので、それに合わせて下ごしらえを始めた。

『ピンポーン』とマンションのエントランスからの呼び出し音がなる。
一瞬、一真さんが仕事を早く切り上げたのかな?と思ったが、帰宅前には必ず連絡をくれる人だった。
しかし、スマホを見ても何の通知もない。

平日のこの時間に人が来ることは珍しい。

 実家からの宅配かな?

時々母がいろんなものを段ボールに詰めて送ってくれるのだが、その時はやはり事前に電話かメールで連絡があった。

インターホンのモニターを見て見ると知らない女性が立っていた。
服装の感じからすると宅配業者ではないようだった。

「…はい。」

とりあえず、インターホン越しに返事をする。

「横谷はおりますか?」

「えっ?」

「こちらに横谷はおりますでしょうか。」

落ち着いた声で女性は私に問いかける。

 どういう事だろう。
 一真さんに会うためになぜ私の家に?

「いえ、今はおりませんが…。」

「直接確認をさせてください。」

「本当に今はいないんです。」

「ですから、直接伺って確認をさせてください。」

強引にこちらに来ようとしている彼女はいったい誰なんだ。

「失礼ですがどちら様でしょうか?」

誰かわからない人物を自宅にあげるわけにはかない。

「横谷の妻です。」

女性は信じられないことを言った。

 どういう事??

「お…奥さまですか?」

「はい。」

その言葉を聞き、胃の奥の方がじくじくと重くなり指先が震え冷たくなる。

 …一真さんに奥さんがいるの!?

年齢的に奥さまがいてもおかしくはない。
しかし、そんな話は一切聞いていなかった。

私のことを恋人にしたいって言うからてっきり独身なんだと思っていた。

 私が不倫相手ってこと??

恋人はいないけど嫁いるっていうパターンなのか…。ショック過ぎて言葉が出ない。

「すみません。こちらを開けていただいてもよいですか?」

奥さまは諦めていないようで、こちらに来ようとしていた。

「申し訳ないですが、本日はお引き取りください。」

そうインターホンに向かって言うとスイッチを切った。

 …まだ、手が震えている。
 
ショックで血の気が引くってこういう事なんだ。と初めて分かった。

過去に散々と浮気をされてきた私だったが、今まで付き合ってきた人たちは佐々木先輩も含め、何かしら怪しい予兆があった。
一真さんとは職場でもプライベートでも常に一緒にいる。
すっかり信用していたので、まさに晴天の霹靂というやつだった。

『女遊びするような歳じゃない』って…。

『大丈夫だ』って…。

そう言っていたのに…。

やっぱり、私は一番になれなかったのだ。

ショックのあまり吐き気がしトイレに駆け込んだ。

暖かいココアを入れて心を落ち着かせる。
そして、涙と吐き気でぐちゃぐちゃになった顔を洗い、再度料理に取り掛かる。

今日は手の込んだ料理をと思っていたが予定変更だ。

顔を作り直すのに時間がかかってしまったからだ。

スマホに一真さんから連絡が入ると、時間通りに彼はやってきた。
< 24 / 53 >

この作品をシェア

pagetop