朝なけに
◇
「じゃあね、葵衣!」
「沙也加さん珠理奈ちゃん、また!」
喫茶店を出て、逆方向を行く二人に手を振る。
最初は人見知りしていた珠理奈ちゃんも、今は笑顔で私に手を振ってくれている。
あの後は、珠理奈ちゃんの好きなアニメのキャラクターの話とかになり、その場は明るく和んだ。
でも、胸の中に不安のようなものが残った。
中さんが、もし危険な目に合ったらって…。
ため息を吐きながら、真っ直ぐに中さんのマンションへは向かわず、買い物をする為にスーパーがある方向へと向かう。
本当は一度自宅に戻ろうか、と思っていたけど、なんとなく今日は早く中さんの所に行きたい。
今夜、千里さん達と飲みに行くから、遅いのも分かっているのだけど。
なんだか、沙也加さんの亡くなった大切な恋人の話を聞いてから落ち着かないからか。
暫くすると、パトカーのサイレンの音がうるさいくらい聞こえて来て。
目線の先に見える大きな雑居ビルの一階に黄色の規制線が貼られ、周りに人だかりが出来ている。
何か事件があったのだろう…。
人だかりがあるのであそこの細道は通れないので、道を変える。
路地裏の方へ抜けようとすると、後ろから腕を掴まれた。
それに驚いて、キャッと声が出た。
「そっちの方向、犯人が逃げたかもしれないから」
その声は女性のもので、私の腕を掴んだのもそうみたいで、安心して振り返った。
振り返って、その女性を見て驚いた。
「やっぱり、そうだ。
葵衣ちゃん、だったっけ?」
真湖さんは、私の腕から手を離した。
この前、修二さんのバーで会った時とは少し雰囲気が違う。
あの時は服だったけど、今はパンツスーツ姿だからだろうか?