後宮鳳凰伝 愛が行きつくその先に
「阿蘭さん、落ち着いて……」

美凰に注意された阿蘭は自分の部屋に戻るなり、あるものすべてを手当たり次第に壁へ投げつける。

「殿下が私に見惚れていたから嫉妬したのよっ!!自分が平凡な容姿だからって私に当たるなんて酷いわっ!!」

「美凰さまは殿下からお𠮟りを受けないように注意してるだけだと思うわ……」

惢真が慰めの言葉をかけるが、阿蘭は苛立ちが治まらない様子。

「花の水やりだって、奴婢(ぬひ)の仕事なのに私に命じるだなんて嫌がらせよ!!」

「美凰さまなりの気遣いじゃないの……?」

「さっきからうるさいのよ!!庶民の分際で私にいちいち言ってこないで!!」

「きゃっ……」

阿蘭に勢いよく殴られた惢真は、よろけて床に手をついた拍子に突き指してしまった。

しかし、それでも怒りが治まらないのか、惢真の頬を引っ叩こうと手を振り上げる。

「やめなさい!」

阿蘭がするよりも早く、美凰が止めに入る。(かたわ)らには利欲も控えている。

「み、美凰さま……これは――」

「利欲、惢真の手当てをしてあげて」

「かしこまりました」

「美凰さま……わ、私は何も……!」

先ほどまで怒鳴り散らしていたとは思えないほど、しおらしくしている阿蘭に諭す。

「阿蘭。確かに惢真はあなたより身分の低い庶民ではあるけれど、惢真もあなたと同じで私の侍女よ。自分の感情で他人を虐げることなど褒められたことではないわ。惢真に謝って来なさい」

「同じ侍女と言っても所詮は庶民じゃない!私の父は主上の重臣ですよ?それなのに、庶民ごときに謝るだなんて嫌です!」

あくまでも自分の非を認めようとはしない阿蘭をじろりと睨む。
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