モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
 食料不足のとき、シスターと森に入って集めて夕食にした。ほかになにもない食卓だったけれど、小さな子どもたちも喜んで貧しいながら楽しいひとときだった。

 前世の記憶がいつになく鮮やかに蘇る。

『……私、お芋初めて食べました。おいしい』

 とてもうれしそうに小さな手を口に添えて微笑んだ子がいた。

『あら初めてだったの? これは茹でてつぶしてもおいしいのよ。今度作ってあげるね』

 ロゼがよく面倒を見ていた子。どこか浮世離れした、珍しい雰囲気を持つ子どもだった。

(あの子はなんていう名前だったかしら)

 今思うと、没落した貴族の子どもだったのかもしれない。

 平民だったら頻繁に食べる機会がある芋を、初めて食べると言っていたのだから。

「クロイツァー公爵令嬢どうした?」

 ぼんやりしているように見えたのか、ユリアンが心配そうに声をかけてきた。

「いえ、少し昔を思い出していたんです」
「昔? ……そういえば、クロイツァー公爵令嬢と出会ってからもう十年以上になるな」

 ユリアンは懐かしそうに目を細めた。

 焚火のオレンジの炎が表情をやわらかく見せるのだろうか。彼との間には壁も溝もなく、気安い空気が流れているような気がした。ベアトリスは微笑んだ。

「初めて王太子殿下に会ったとき、私はとても緊張していて、実はおなかが痛くなってしまったんです」
< 117 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop