モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
「もしかして怖いのですか?」
普段は無口な側近ゲオルグがあきれたように声をかけてきた。あたり前じゃないと言いたい気持ちを抑えて、曖昧に微笑んだ。
「い、いえ大丈夫です」
「まあそうですよね。武門の名家クロイツァー公爵家の令嬢が、この程度で恐れるはずがありません」
(これ、絶対に嫌みだわ)
ゲオルグは洞察力が高そうだから、ベアトリスがびくびくしていることにとっくに気づいているのだろう。
(仕方ないじゃない、以前と違って今の私は臆病なんだから)
ぷいっとそっぽを向くと、今度はなぜかベアトリスを見ていたユリアンと目が合ってしまった。
(な、なんでこっちを見ているの?)
彼もばかにしてくるのだろうか。
(王太子の婚約者なのに情けないって文句を言われるのかな)
しかしユリアンは意外にも心配そうな表情になった。
「出発まで時間がある。少し休んだらどうだ?」
「い、いえ……大丈夫です」
思いがけず優しい言葉に驚いた。ユリアンは少し困ったように眉を下げてからベアトリスに近づき、耳もとでささやく。
「心配しなくていい。俺が君を危険な目には遭わせないから」
「……え?」
(今、なんて?)
信じられないセリフが聞こえた気がして、ベアトリスは目を瞬く。
ユリアンはそんなベアトリスの様子を見て小さく笑うと、去っていった。
(な、なんであんな言葉を……)
ベアトリスはぼうぜんとすらりとしたうしろ姿を見送る。