悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
1 プロローグ
 厳しい冬が過ぎ去り、柔らかな春の光が優しく包み込むような陽気。
 色とりどりの花が咲き誇り、見渡す限り手入れが行き届いた美しさは、さすが王宮の庭園だ。
 外でお茶会を催すにはぴったりの良き日。

 新緑のドレスで着飾った私、リディア・メイトランドは不貞腐れていた。

「お母様に言われた通り大人しくしてるのに、全然楽しくないわ……」

 今日はデビュー前の令嬢や令息が集まり、王宮の庭園で親睦を深めるためのお茶会が催されている。
 だが、お茶会の真の目的は、今年十二歳になる王子の婚約者候補を集めて、的を絞ること。しかも、その候補者の中に、私も含まれているらしい。

(結婚とか、婚約とか、ぜんっぜん興味ないのに!)

 公爵令嬢たるもの、いつかは政略結婚をするのだと教え込まれてきた。だが、私はまだ十歳になったばかり。お茶会より今日もディーンお兄様と剣術の修業をしたかった!

 その上、先程から周りの令嬢たちが遠巻きにコソコソ話しているのも気に食わない。王子と誰が婚約者になれるか、腹の探り合いをしているようだ。面倒くさい。

(お友達も出来そうにないし、もう帰りたいわ……)

 この見た目のせいか、なかなか他の子も話しかけてくれない。私の赤い髪色は派手だし、大人びた顔立ちでつり目だからか、気が強そうに見えるらしい。かといって、自分から話しかけてまで仲良くなりたい子もいないし、ドレスは苦しいし、走って逃げ帰りたかった。



 今日は朝から、お母様と侍女のメアリーがはりきっていたので嫌な予感はしていた。朝食後、有無を言わさず磨き上げられ、最上級のおめかしをさせられて、公爵家を出発。王宮へ向かう馬車の中でお茶会のことを知らされたのだ。

 馬車で聞かされたのでは逃げる隙もない。母は逃亡の機会を計る娘に懇々と告げた。

「リディア、よいですか。国王様と王妃様が自らお声がけいただいたお茶会なのです。くれぐれも失礼のないように! 公爵令嬢たるもの、走ったり木に登ってはいけませんわよ!」
「それくらいわかっておりますー」

 鬼のような形相のお母様に、口を尖らせて言い返す。いつものやりとりにお母様は呆れた様子で溜め息をついた。
 
 私は昔から令嬢らしくないことをしたがるので、よく叱られてきた。

 広い野山は駆け巡りたくなるし、立派な木があれば登りたくなる。お兄様の剣術の稽古も一緒に参加しているし、護身術くらいなら会得している。身体を動かすことに喜びを感じる自分は、少し変わった令嬢であることは自覚していた。

 そういうわけで、王宮へ向かう馬車に乗っている間ずっと、公爵令嬢として大人しくしているようお母様にキツく言われ続けたのだった。
 
< 1 / 67 >

この作品をシェア

pagetop