悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています


 会場の隅で不貞腐れていると、一緒に参加していたディーンお兄様がやってきた。

「どこにいるのかと思ったら、こんな隅に居たのか」
「だってつまらないんですもの」

 ディーンお兄様とは、いつも一緒に剣術の修行をしていることもあって仲が良い。お茶会の場だというのに、思わず本音が溢れた。
 公爵家嫡男かつ顔も良いお兄様は、御令嬢達に囲まれて忙しそうだったのだが、なんとか抜け出してきたようだ。

「じゃあ、一緒にクリスのところに行かないか?」
「まぁ、クリストファー殿下のところへ?」
「可愛いリディアを自慢しなくちゃ」

 クリスとは、我がラビング王国の第一王子である、クリストファー殿下のことだ。
 殿下とお兄様は同じ年齢で、遊び相手として幼い頃から王宮に呼ばれていた為、二人は固い友情で結ばれている。

 お兄様に連れられて、クリストファー殿下をはじめとする令息たちの集団に混ざる。遠目から殿下の様子を見ていたらしい令嬢たちが、恨めしそうに見てくるので居心地が悪い。私がクリストファー殿下にお会いするのは、これが初めてだ。

「クリス、妹のリディアを連れてきた」

 一国の王子になんという言葉遣い! と驚きながら、淑女の礼をとる。すると頭上から優しく殿下が声をかけてくださった。

「ディーンからよく聞いている。リディア嬢に会うのを楽しみにしていたよ」
「お初にお目にかかります。リディア・メイトランドと申します」

 ゆっくりと顔をあげる。すると、そこには美しい王子様が優雅に座っていた。ふんわりした金色の髪、透き通るアイスブルーの瞳、整ったご尊顔に驚く。同じ十二歳の兄とは別次元の生き物なのでは、と思うほどに大人に見えた。

 殿下の周りには眼鏡の少年と、ディーンお兄様、背後に騎士の恰好をした同じくらいの年齢の男の子も立っていた。

(クリストファー殿下……金の髪! 青い瞳! なんてイケメン! ……ん? イケメンってなんだっけ?)

「こちらは僕の侍従のキース、そして後ろにいるのは聖騎士のアランだよ。最年少入隊したんだ」
「よろしくお願いいたします……」

(みんなイケメン……そりゃそうよゲームのメインキャラだもの……ってゲーム?)

 自然と思い浮かぶ謎の単語。『イケメン』や『ゲーム』、『メインキャラ』など知らない単語なのに、使い慣れた言葉のような気がしてきて、混乱する。

 この四人を前にしてから、頭が混乱してきた。何故だか初めて会った気がしない。絵画のようなもので、彼等を見たことがある気がする……。イケメン……ゲーム……?

(あれは……私の、────前世?)

 とてつもない頭痛に襲われていると気付いた時には、一気に押し寄せてくる記憶に酷い目眩がして、私はそのまま意識を手放した。
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