敵国王子の溺愛はイケメン四精霊が許さない!~加護持ち側妃は過保護に甘やかされています~
 なんにせよ人様の部屋に勝手に入り込んだこの状況はうまくない。自分の部屋に戻ろうと踏み出したその時。
 ──カタン。
 小さな物音がして、低く張りのある声があがる。
「ハウイットか? なにか急ぎの用件でも──」
 私が振り返るのと同時、浴室に繋がる扉が開き、ジークフリード殿下が現れた。
 殿下は言葉途中で息をのみ、食い入るように私を見つめる。私もまた、縫い留められたみたいに殿下から視線が逸らせなかった。
 殿下の洗いざらしの髪は濡れそぼち、毛先から落ちた雫が一糸纏わぬ肌を伝う。下こそ穿いていたが上半身は裸で、上気した肌を余さずに晒していた。
 広い肩に太い腕。引き締まった腹筋は綺麗に割れ、全身がしなやかな筋肉に覆われている。戦で負ったものだろうか、引き攣れた創傷がいくつか見受けられたけれど、不思議と恐ろしいとは感じなかった。その傷こそが、彼が先陣を切って国を守ってきた証なのだと思えた。
「……エミリア?」
< 79 / 265 >

この作品をシェア

pagetop