純・情・愛・人
見えない指が顎にかかり上を向かされたように。大地を膝の上に抱っこした広くんの眼差しが黒い矢になって、わたしを射貫く。

「甘いコトほざきながら『大地(こいつ)をよこせ』って笑いやがったら、有馬宗吾を捨てろ。もうお前の宗ちゃんじゃねぇよ、そいつは」

矢がまた一本。速度を増し。

「兄貴が惚れてんのは、なんでも許す人形の薫子じゃねぇのか。いつまでもしがみつくな」

二本、三本、膿んでいた胸に風穴が空く。

「俺がいる」

空いた穴を風が吹き抜ける。

「惚れろとは言わねぇよ。ただお前と大地を抱えて生きてぇだけだ」

穴の内側が削られ、こびりついていた(おり)がさらわれていく。

「死ぬまで日なたで笑わせてやる、俺がお前を」

広くんの声が穴を抜け。
ずっと見えない先まで真っ直ぐ、
どこまでも伸びていった。
気がした。
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