純・情・愛・人
5-4
今年の桜は、残ったところは、入学式くらいまで褪せた色の花びらを風に散らせていた。

本当は庭も、春らしい寄せ植えを置いてみたかったけど、あまり手間がかからないパンジーで精いっぱい。大地が動き回っててんてこ舞いなうちは二の次だ。白に黄色、鮮やかな紫。花持ちが良いし、洗濯物や布団を干すたび癒される。

青みが増した芝生に子供用のジャングルジムやすべり台を置いて、晴れた日は外で遊ばせたり。近くの公園に三人で散歩にも出かける。たぶん傍目からは子育て真っ最中の若い夫婦に見えているんだろう。

広くんとの距離は少しだけ詰まった・・・のかもしれない。迷うわたしの手を引っ張ることはあっても、強引に詰めるような真似はしない。自分よりずっと大人なのをときどき教えられる。

大地にとっても父親の温もりを分け与えてくれる存在になってくれて、極道を離れてくれて。・・・・・・このまま何も知らずに広くんをお父さんだと信じるほうが、あの子は幸せ・・・?

リビングの窓際でアイロンをかけながら、お昼寝中の大地を見やった。今日は朝から洗濯日和、物干しではためくシーツと布団カバーは陽射しをたくさん吸い込んだことだろう。

お昼過ぎに出かけた広くんは夕飯までには帰ると言っていた。なんの仕事なのかは訊かない。好きに使えとゴールドカードを渡されていて、収入のないわたしは結局頼りっきりだ。

宗ちゃんが生活の為にくれたキャッシュカードもまだ、お財布の中。あれから一度も連絡していない。宗ちゃんからも来ない。

待っている気がした、向けた背中にわたしからすがるのを。黙っているのはメッセージ、わたしへの。

『俺についてくるんだろう、薫』
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