純・情・愛・人
足が止まった。彼も数秒遅れて立ち止まり、こっちに向き直った。どこで会ったんだろう。訊ね返す前に、ホコリを被った記憶の引き出しを探る努力をしてみる。

顔の印象は醤油とか塩で例えるなら・・・味噌バター? しつこい濃さじゃなく、くっきりした目鼻立ちは輪郭の中にバランス良くおさまっていて、笑ったら愛嬌もありそうな。髪型とアゴ髭で極道(それ)らしく寄せているというか。

こんなストリートダンサーみたいな人だったら、何となくでも見覚えがありそうなものだけど。小首を傾げた。

「そんなに変わったかぁ?」

彼がククッと笑いをくぐもらせる。

「高二ん時、同クラだった朝倉(あさくら)(ごう)。けっこう園部とは話したんじゃね? まあ夏休みで中退(ヤメ)ちまったしなー、忘れるかフツウ」

「・・・!?」

大きく目を見張った。だってここは秋津組四道会傘下、永征会会長の自宅。まさかの元クラスメイトに声をかけられるのは想定外すぎる。

あっという間に記憶が巻き戻った。家から自転車通学ができる範囲の公立高校を選んだのは、家事と両立できるようにだ。

部活も入らなかったから友達は少なかった。そのおかげか、気さくに話しかけてきた隣りの席の男子のことはすぐ蘇った。二学期が始まったら急に姿を見せなくなったことも。

「朝倉君て、あの朝倉君・・・?」
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