純・情・愛・人
2-1
桃の節句は女の子の成長を祈る行事なんだとか。お母さんと一緒に三段のお雛様を飾ったのは薄ら憶えていて、いつからか何故か宗ちゃんの家で、おじさんがわたしの成長を祝ってくれる行事になっていた。

三月に入ってすぐの土曜日、お昼頃の約束で有馬の家に招かれ、お正月ぶりの訪問。コンクリートの外塀と監視カメラに囲まれた豪邸は高い擁壁の上に建っていて、見上げても通行人に映るのは壁、壁、壁。

車が入って行ける正門の奥にも小さい門があって、そっちのモニターホンを鳴らす。応対してくれたお手伝いさんに名乗ると、しばらくして内側から門が開き、金髪でモヒカンぽい坊主スタイルの男性が顔を覗かせた。

「えーと園部サン?」

「はい」

「ドーゾ」

「失礼します」

背は宗ちゃんほどでもなく、歳はわたしとそんなに違わないかもしれない。小道を後ろをついて歩きながら何気なく観察。派手なバックプリント入りの黒いパーカーに、迷彩柄のワークパンツ。あまり見ないラフな格好だから新人さんとか。

「あのさ」

いきなり顔だけ振り返られて驚く。顔見知りじゃない人に話しかけられたのは初めてだ。

「オレのこと憶えてねーかなぁ?」
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