純・情・愛・人
遺言。子供。マンション。受け止めた掌から零さないようにするのが精一杯。プレゼントされた真珠のネックレスや高級ブランドのお財布とは、意味も重みも違う。どう仕舞えばいいか途方に暮れそうなほど。

昨夜の電話は、おじさんに何かしらの話を聞いたんだと思った。大丈夫だと言ったから、ただ待っていた。

甘えっきりの自分に後悔している。宗ちゃんはとっくに一人で手を伸ばし、未来の尻尾をつかんでくれていた。私と歩く道をずっと先まで繋げようと。

胸が詰まって言葉にならない、嬉しいを通り越して苦しい。鼻の奥がつらい。

「オレに孫も抱かせてくれるってか」

「ここにいるのは、惚れた女に普通の暮らしと普通の幸せをやりたいだけの、ただの男だ」

「そりゃな、宗だって背負(しょ)ってるモンを降ろせる場所が欲しいだろーけどよ」

溜息混じりの難しい顔。桜餅にじっと視線を落としたお父さん。宗ちゃんが低く静かに畳みかける。

「親父さんは見届けてくれるだけでいい。俺がどれほど薫に掬われて死ねるかを」
< 35 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop