愛はないけれど、エリート外交官に今夜抱かれます~御曹司の激情に溶かされる愛育婚~
もしかしたら、碧唯も気持ちの変化が生じている可能性だってある。それは本当にわずかな公算ではあるけれど。
ともかく、にっちもさっちもいかない状態なら、動かす努力が必要だ。少なくとも仕事においては、これまでそうしてきた。
午後八時。この時間なら、たぶん彼はまだ外務省庁舎にいるだろう。
せっかく奮い立たせた心を、マンションで彼の帰宅まで留まらせていたくない。その間に気持ちが変わる可能性がある。
冷静になるならそのほうがいいのかもしれないが、前に踏み出した今を大事にしたかった。
地下鉄の改札を抜け、地上に出る。むわっとする空気に包まれたそのとき、目の前の庁舎から碧唯が出てきた。――女性と親しげに。
碧唯と腕を組んで歩く女性は、ローマで彼の同僚と紹介された咲穂だった。
眼鏡を掛け、以前とは違う見た目ではあるが、美しいのに変わりはない。
ふたりは仲良く、べつの地下鉄の入口に吸い込まれていく。
南は足を止め、それを茫然と見送る以外になかった。