愛はないけれど、エリート外交官に今夜抱かれます~御曹司の激情に溶かされる愛育婚~
「好きだと伝えてもいないんだからな」
「……え?」
抱きしめられていた彼の腕の中で、ゆっくり顔を合わせた。
今、好きと言わなかったか。
それとも事故の混乱が生じさせた聞き違いか。
処置室内のざわめきがぴたりと止み、ふたりだけの空間にいる錯覚を覚えた。
「俺は南が好きだ」
「ちょ、ちょっと待って。友達じゃ……ないの?」
思いがけない言葉を掛けられ、頭の中が錯乱状態。何本もの糸が絡み合ったみたいで、どこをどうやっても解れず、余計複雑になっていく。
「帰ろう」
「え?」
「先生の許可ももらった。仕事も今日はお役御免。あとは南と俺たちの家に帰るだけだ」
碧唯は引きはがした南を立たせた。
処置室にいる看護師にお礼を告げ、南の手を引いて病院を出る。列をなしていたタクシーに乗り込み、運転手に行先を告げた。
先ほどの会話の続きはお預け。碧唯は涼しげな顔をして窓の外に目を向けていた。
でも、ふたりの間には以前とは明らかに違う空気を感じる。視線はべつのほうを向いているが、固く繋がれた手がそれを象徴していた。