愛はないけれど、エリート外交官に今夜抱かれます~御曹司の激情に溶かされる愛育婚~

「好きだと伝えてもいないんだからな」
「……え?」


抱きしめられていた彼の腕の中で、ゆっくり顔を合わせた。

今、好きと言わなかったか。
それとも事故の混乱が生じさせた聞き違いか。

処置室内のざわめきがぴたりと止み、ふたりだけの空間にいる錯覚を覚えた。


「俺は南が好きだ」
「ちょ、ちょっと待って。友達じゃ……ないの?」


思いがけない言葉を掛けられ、頭の中が錯乱状態。何本もの糸が絡み合ったみたいで、どこをどうやっても解れず、余計複雑になっていく。


「帰ろう」
「え?」
「先生の許可ももらった。仕事も今日はお役御免。あとは南と俺たちの家に帰るだけだ」


碧唯は引きはがした南を立たせた。

処置室にいる看護師にお礼を告げ、南の手を引いて病院を出る。列をなしていたタクシーに乗り込み、運転手に行先を告げた。

先ほどの会話の続きはお預け。碧唯は涼しげな顔をして窓の外に目を向けていた。

でも、ふたりの間には以前とは明らかに違う空気を感じる。視線はべつのほうを向いているが、固く繋がれた手がそれを象徴していた。
< 202 / 267 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop