冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
 とても不器用な人だけれど、本当は親切で優しい。戦場に行く大嫌いな義弟の為に、数年にもわたる研究成果をあっさりと渡してしまうほど。普通出来る事ではない。


 リーンハルトが十歳の頃、彼女は下町の孤児院からやって来た。
 可哀そうなほどがりがりに痩せていた。アメジスト色の大きな瞳が怯えるように潤んでいて愛らしかった。

 例えるなら捨てられた仔猫。最初はとても警戒心が強くて仲良くなるのがたいへんだった。甘いお菓子が大好きで、あげると嬉しそうに食べる。そのうち庭で一緒に遊ぶようになった。
 だが、仲良くなれたと思った矢先に彼女はリーンハルトを嫌い始めた。

 そう嫌いなはずなのに、彼女はリーンハルトが流感のときずっとついて離れなかった。「私がうつしたから」だといい。つんけんした言葉とは裏腹に一生懸命付きりで看病してくれた。
 
 それこそ、片時も離れずに……。夜中に「死んじゃったらどうしよう」などといって彼女が泣いていたのを夢うつつに聞いた。


 レティシアはいつもそうだ。普段は嫌って口も利かないのにこちらがけがをしたり、病気をしたりすると過剰に心配してそばを離れない。

 リーンハルトはそのたびに混乱させられた。好かれているのか嫌われているのか分からない。
 彼のけがや病気がなおると、彼女はまたいつものように避ける。

 不器用なひとだけれど真面目で努力家。
 リーンハルトは自分の言葉がきついという自覚はある。だから、嫌われたのだと思っていた。


 討伐隊に入ると決めたある日、
「リーンハルト、レティシアには討伐隊に参加することを話したのか?」
と父から聞かれた。
「話してません」
「彼女はきっとお前を心配するだろう」
「まさか? レティシアは俺が嫌いですよ」
「そうは思えないがな」
 少し残念そうに父が言う。リーンハルト首を傾げた。

「ねえ、あなたレティシアには言ったの?」
 母からも聞かれた。
「いいえ」
「やっぱりね。話しておいた方がいいわ。心の準備がいるから」
「心の準備?」
「あなたが討伐隊に入るといったら、あの子きっと大泣きするわよ」
 あの時は「まさか」と笑ったが、母が言ったことは的中した。
レティシアが泣き崩れて、どうしようかと思った。思わずぎゅっと抱きしめそうになって慌てて彼女の元から離れた。
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