冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
 リーンハルトがレティシアの顔を覗き込む。水音が耳に心地よい。
「うん」

 全く覚えがなかった。そもそもあの頃のリーンハルトは同じ家に住んでいても遠い存在で、一緒に遊んだ覚えはない。

「レティシアは家に来たばかりの頃のこと全然覚えていないの?」

 何をいいだすのだろう。やけにしつこい。でも彼の方が記憶力がいいことは確かで。

「ええ、あの頃はリーンハルトがとても親切で、天使のようにかわいかったのは憶えているわ」
「天使? 何だよ、それ」

 義弟が不満そうな顔をする。

「後はリーンハルトと口をきなくなっちゃったからなあ」
「なんで。そうなったの?」

 十三歳以前の話だ。そういえばループの件はリーンハルトのなかでどう処理されているのだろう。

「それは、だって、私あの頃文字も読めなかったし、それなのにあなた達姉弟はなんでもできて、嫉妬しちゃったのよね」
「ある日突然?」
「え、何が?」

 レティシアは瞳を瞬いて、背の高いリーンハルトを見上げる。

 青いサファイヤのような双眸がまっすぐとレティシアを見る。

「ある日突然レティシアは口を利いてくれなくなった」
 そう言われても困る。

「……覚えがないわ」
「おかしいじゃないか。前日まで俺たちはこうして池で遊んでいたんだ。それなのに次の日突然俺と口を利かなくなった。あのとき約束したんだ。次の日もこの池の前で遊ぼうって。噴水が見たいとレティシアがねだったんだ」

 彼が揶揄っているわけではないのは分かる。レティシアはリーンハルトに言われて思い出そうとした。そういえば彼と遊んだ気がする。

「うーん言われてみれば、そんな気も……」

 もどかしい、黒い靄がかかったように思い出せない。そのうちだんだんと視界がすぼまり頭痛がしてきた。
 バシャリと冷たい水がかかる。

「済まない。レティシア、コントロールを誤った」
「平気、なんか頭痛がしていたのが引いた」
「大丈夫か?」

 レティシアが目をぱちくりとするとリーンハルトが心配そうに覗き込んでいる。

「めずらしいね。リーンハルトがコントロールを誤るなんて」
 彼はそれには答えず苦笑しただけだった。その姿が妙に大人っぽくてどきりとした。また、彼はいつの間にか大人になってしまうのだろうか。少し寂しく思う。

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