冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
 剣術の教師から、剣を受け取るリーンハルト。この頃の彼はまだ少し子供っぽい。対抗心剥きだしだ。レティシアから見た彼は負け知らず。この機会に負けを覚えるといい。

「私が、あなたに負けを教えてあげる!」

と高笑いする。これで随分彼も平常心を失うはずだ。

 リーンハルトはたしなみ程度にさらっと剣術をやっただけでレティシアのように本格的にはやっていない。魔法の勉強と跡取りとしての教育で忙しいのだ。これは本当に初めてリーンハルトに勝てるかもしれない。そう思うと不謹慎にも少しわくわくした。

 試合開始の合図とともにレティシアは渾身の一撃を打ち込んだ。リーンハルトがあっさりと受け止める。反応が早く、細身なのに力が強い。たいして剣術など習っていないくせに。
 しかし、剣技とはそれだけではない。

 数回剣を合わせたのち、カラーンといい音をさせて、リーンハルトの持つ剣が地面に転がる。

「やった! 嘘でしょ? 私、勝っちゃった!」

 レティシアは小躍りする。ついうっかり素で喜んでしまった。初めてだ。初めて彼に勝った。彼女の行動は大人げなく、残念な性格がまるだした。
 するとリーンハルトが俯いてぷるぷると震えている。金糸の髪からのぞく耳が真っ赤だ。泣くのだろうか。それともけがをしたのだろうか。少しやり過ぎた。

「あの、リーンハルト、大丈夫? どうしたの? 痛かった?」
 けがをしていたらどうしよう。いまさらながら心配になり自然と声が震える。
「うるさい。黙れ!」
 
 子供らしからぬ鋭い語気にレティシアの方がびくりとする。リーンハルトは顔を上げると強い眼差しをまっすぐに向けてくる。

「これで最後だ」

 押し殺したような声で言う。

「え?」
「お前に負けるのはこれで最後だ!」

 そう言い放つ。よほど悔しかったのだろう。そして今世でも変わらず潔い。言い訳などせず、怒りながらもあっさり負けを認めている。初心者から見れば汚いと思われるフェイントを使ったのに。

 変わらない。リーンハルトは、どこまでもまっすぐだ。それが嬉しくて微笑んでしまいそうになり、寸でのところで抑えた。
 単純に力押しと反応の速さならば、彼の方が優れている。ただ彼はフェイントを知らなかっただけ。多分その言葉通り、次は彼が勝つだろう。そしてその後はきっとかなわない。


< 92 / 159 >

この作品をシェア

pagetop