貴方と私は秘密の✕✕ 〜地味系女子はハイスペ王子に夜の指南を所望される〜
「隙あり、ですね。山本さん。」

からかうような口調で神山透は一瞬ニヤリとすると、何事もなかったようにかのように視線をエレベーターの表示ランプに戻してしまう。
こちらの心を乱すだけ乱しておいて、その態度はどういうことだ。一人なぜだか置いてきぼりにされた気がしてきて、思わず私は憎まれ口を叩いてしまうのだった。

「……神山さん、ここ、会社の中ですよ?」
「そうですね。でも二人きりだったんで、つい。」
「まだ、お昼時ですよ?」
「そうですね。でも我慢できなくて。すみません。」

神山透は謝罪の言葉を口にしながらも、悪かったとは微塵にも思っていない表情をする。

「ね、もう少し。1階に着くまでこのままでもいいですか?」

前を見つめたまま、そう言って絡ませた指をぎゅうと握りしめる神山透の表情は、相変わらず他人行儀なビジネスマン然としたものだけれど、よく見るとその瞳の奥には夜に灯る情熱が確かに煌めいている。

「……いいです、けど。」

そんな目をされてしまっては、抵抗なんてできやしない。
指から感じる神山透の熱が体全体に伝達すれば、本能の赴くままに縋り付きたくなってしまう。
急に湧き出た衝動に翻弄されないように努めるのが精一杯の私は、そう短めに言葉を返すしかないのだった。

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