俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
『当たり前だろ。それが上に立つ者の仕事だ。あと野迫川の言いなりになるんじゃない。うちがこの企画をすることによって得らえる利益を必ず考えるんだ。わかるな、幸せを提供するだけじゃない、その対価をしっかりもらえ』

『この間と言ってることが違う……笑顔を作るのが私の仕事なんじゃないですか』

 挙式を一緒に見学したときの御杖部長のセリフに感動したのに。

『理想論だけではやっていけない。ビジネスなんだ利益が優先なのはあたりまえだろう』

『う……はい。おっしゃる通りです』

 いまさら何を言っているんだと言わんばかりの見下すような冷たい視線に心が悲鳴を上げる。

『しっかり利益を上げて俺を笑顔にしてくれ』

 耳障りのいいこと言って、結局はそこなの!?

『努力します』

 言いたいことを飲み込んで、素直に返事をした私を見て彼は満足そうだ。

『気分転換に飯でもいくか?』

『いいえ、今はこれを仕上げたいので』

 不機嫌になると思いきや、御杖部長はふっと笑った。

『俺の誘い断る女は、お前くらいだよ。まあ、しっかりやれよ』

『はい』

 彼は出口に向かいながら、こちらをみずに手を振った。

 ばたんとドアが閉まった後、私は大きく伸びをした。時計を見るとまもなく二十二時。

 彼はまだ仕事をするのだろうか。本店での仕事もありこちらに顔を出すのはそう多くない。

 それにも関わらず声をかけてくれたと思うとありがたいと同時に、むくむくとやる気が湧いてきた。

 上司としてほんの少し声をかけてもらっただけなのに、この気持ちの違いはどういうことだろうか。

 とにかく彼の言葉ひとつで気持ちが前向きになる。

 そういう人なんだろうな。人を動かせるからきっと今の立場にあるんだろうな。

『さーて、やりますか』

 終電まであと少し。私はもう一度気合を入れ直して、パソコン画面に向かった。
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