俺様御曹司のなすがまま、激愛に抱かれる~偽りの婚約者だったのに、甘く娶られました~
そんな……そんな忙しない日々も、今日で終わる。
私はロッカールームでスカーフを結び直し、気合を入れてバンケットルームに向かった。
しかし始まってからも、あれこれとトラブルが起きる。ドリンクが足りない、座る場所がわからない、リンクスのスタッフだけでは対応できない場合、私はフォローするために走り回った。
こういうときに体が自然に動くのは、これまでの経験のおかげだろう。
時にはバンケット内で、時には外の受付で、そしてレストルームやエレベーターまで常に注意を払う。
今日は日本酒が飲める婚活パーティなので、会場を和の雰囲気で統一していた。それがなかなか好評で提案した私もほっとしている。
歓談の時間になり流動的に動き始めた人たちに、目を配る。
「よかったら、お撮りしましょうか?」
「え、はい。お願いします」
私は二人組の女性客に声をかけ、彼女たちからスマートフォンを受け取った。
ここはバンケットルームに続く中庭だ。普段は洋風づくりの庭だが、今日は和風の庭につくり替えた。
休憩ができるように緋毛氈を敷いた縁台を置いた。てまりや折り鶴なども飾り、噴水には菊を浮かべた。
「撮りまーす」
にっこりと笑う女性たちに向かって、私な何度か撮影ボタンを押した。
「これでいいですか?」
「はい? わぁ、かわいく撮れてる」
喜ぶ姿を見てほっとする。
「あの、私たちもいいですか?」
「はい。よろしければこちらはどうですか? 写真映えすると思います」
案内した位置に立った女性たちは、背景を見て笑みを浮かべている。次いでかわいらしいポーズをとると笑みを浮かべた。
私が撮った写真を見た女性たちは、小物も写真を撮っていた。
「ヘイムダルホテルってこんなふうに和風な結婚式もできるんですか?」
「はい、もちろんです。神前式も変わらず人気ですよ」
「へぇ、素敵! ってまだ相手もいないんですけどね」
婚活パーティの参加者なのだからあたりまえだ。
「では本日、良いご縁がありますように」
私はポケットから取り出した折り鶴を、女性ふたりに手渡した。インカムから指示が入ったので「ごゆっくりお過ごしください」と声をかけて、その場を後にする。
はぁ、楽しそうにしていてよかった。
婚活パーティは男女の出会いのためのものだ。しかし皆が皆そこで素敵な人に出会えるわけではない。
特に女性は友人と参加される方も多い。
私は本来の目的がかなわなかった人たちにも楽しい時間が提供できるように女性の好みそうな空間づくりを心掛けた。
さてもう少し、私は心の中で腕まくりをしてトラブルが発生した場所に早足で駆け付けた。
そのときどこかから視線を感じ周囲を見渡した。
スタッフをさがしているのかもしれないと思い歩きながら気を付けるが、視線の主はわからずじまいだ。
気にしていたものの、インカムから指示が出たので私は次の催し物の準備のためにその場を離れた。